クビワオオコウモリ(学名:Pteropus dasymallus)は、
九州南部からフィリピン北部まで比較的温暖な地域に生息するコウモリです。
50㎞程度までは海を越えて島間を移動するため、
奄美大島や喜界島などの離島でも観測できることもあります。
オオコウモリの一種であり、大柄な見た目と名前の由来となった首の輪っかが特徴的です。
本記事では、クビワオオコウモリの基本情報や生態、さらには保護情報などを詳しく解説します。
世界中のコウモリは2種類に分けられる
世界には1,000種を超えるコウモリが生息しており、大きくわけて2つのグループに分類されます。
ひとつは果実を主食とする大型の「オオコウモリ(オオコウモリ亜目)」で、
もうひとつは昆虫や小動物を捕らえて食べる小型の「ココウモリ(小翼手亜目)」です。
日本に生息するコウモリの多くはココウモリに属しているものの、
クビワオオコウモリはオオコウモリの一種として分類されています。
オオコウモリ(フルーツコウモリ)の特徴
オオコウモリは、翼を広げると1メートルを超えることもある大型のコウモリです。
視覚と嗅覚を使ってバナナ、マンゴー、イチジクなどの果実や花の蜜を食べるため、
「フルーツコウモリ」という別名もあります。
花粉を運ぶ役割も担い、熱帯や亜熱帯地域の森林の生態系に貢献する一面も。
一方で、果樹園の作物を食べてしまうため、農業被害の原因にもなりえる種類です。
オオコウモリは熱帯・亜熱帯地域の島々に生息しており、大きな目を持ち、主に視覚を使って活動します。
オオコウモリはその独特の生態から観光資源としても注目されており、夜間ツアーでもその姿を観察できます。
ココウモリの特徴
世界のコウモリの約8割を占めるのがココウモリです。
体長は最大でも10cmほどと小さく、
日本に生息するコウモリも34種のうち32種がココウモリの仲間とされています。
最大の特徴は「エコーロケーション(反響定位)」と呼ばれる能力です。
超音波を発して周囲の環境を把握することで、
暗闇でも視覚に頼らずに昆虫などの獲物を探せます。
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クビワオオコウモリの基本情報
和名 | クビワオオコウモリ |
分類 | オオコウモリ科オオコウモリ属 |
学名 | Pteropus dasymallus |
体長 | 約17.5㎝~23.0㎝ |
体重 | 約31.8~66.2g |
クビワオオコウモリの生息域
クビワオオコウモリは九州南部からフィリピン北部のおよそ1,800㎞にわたる島々を中心に生息しています。
国内ではエラブオオコウモリ、オオイオオコウモリ、ヤエヤマオオコウモリ、ダイトウオオコウモリの4つの亜種がおり、
奄美諸島や沖縄諸島など比較的温暖な地域で観測が可能です。
また、台湾に生息するタイワンオオコウモリもクビワオオコウモリの亜種とされています。
ねぐらとしているのは、林内の比較的高い木の樹冠部です。
枝にぶら下がって休息している様子が度々目撃されている一方、都市部の公園や街路樹を利用することもあります。
クビワオオコウモリの見た目の特徴
クビワオオコウモリは、小型コウモリ類と比べて体のサイズが大きく、
全長17.5~23㎝、体重は31.8~66.2g程度あります。
全身を黒褐色から茶褐色の長くやわらかい毛で覆っており、
首の部分には名前の由来にもなっている首輪上の模様がついているのが特徴です。
首輪はオスは黄色から橙色、メスは白色の模様になり、
胸部から腹部にかけて白色を帯びる個体もいます。
また、エコーロケーションを使わずに有視界飛行を行うため眼は大きく、
樹上を移動しやすいように前肢第1指も長大です。
クビワオオコウモリの生態
クビワオオコウモリの活動時期や好物などを通して、
どんな生態を持っているのか解説します。
暮らしぶりや特徴について、理解をさらに深めるきっかけとなるでしょう。
活動時期
クビワオオコウモリは9~11月頃に餌場周辺で交尾を行い、5~6月頃に出産期に入ります。
子コウモリは約4~5か月母親と過ごし、9~10月頃に独立を果たします。
温暖な地域に生息しているため、季節による活動の差はほとんどありません。
冬眠期間もなく、一年を通して活動するのが大きな特徴です。
活動時間
ほかのコウモリ同様夜行性のため、主な活動時間は夜間です。
「沖縄島におけるクビワオオコウモリの昼間の採餌活動」によると、
平均活動開始時刻は日の入り後11.8分後、活動終了時刻は日の出前約32.8分前でした。
日が暮れてから夜明け直前まで活動をするため、
日中にその姿を目にすることは難しいといえるでしょう。
ただし、場所によっては昼間に活動する場合もあります。
エサ不足が原因と考えられており、パイナップルをはじめとした食害が頻発しています。
鳴き声
クビワオオコウモリは有視界飛行を行うため、
ココウモリのように超音波を発することは少ないとされています。
「キーキー」「ギャーギャー」といった甲高い声で仲間とコミュニケーションを取るのが特徴です。
小競り合いをする際に鳴くことが多く、餌や縄張りを争っている際によく聞かれるでしょう。
食べ物
主食はほかのオオコウモリと同様に果物です。
ただ、その食性は幅広く、
季節に応じて花蜜や葉など130種ほどの植物を食べるとされています。
口に入れた果実は何度も咀嚼して果汁のみを飲み込み、実は吐き出すのが特徴です。
クビワオオコウモリが吐き出した実には植物の種子が含まれており、
種子散布に貢献しています。
クビワオオコウモリは絶滅危惧種に指定されている
絶滅危惧種は、環境省により、9つに分類されており、以下の表のとおりです。
クビワオオコウモリは現在、鹿児島県において絶滅危惧1Aに指定されています。
分類 | 説明 |
絶滅 | 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種 |
野生絶滅 | 飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種 |
絶滅危惧1種 | 絶滅の危機に瀕している種 |
絶滅危惧1A種 | ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの |
絶滅危惧1B種 | 1A種ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの |
絶滅危惧2種 | 絶滅の危険が増大している種 |
準絶滅危惧 | 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性のある種 |
情報不足 | 評価するだけの情報が不足している種 |
絶滅のおそれのある地域個体群 | 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの |
絶滅危惧種に指定されている主な理由は、森林伐採や開発による生息地の喪失、食糧資源の減少、
さらに人間による捕獲や駆除などが原因とされています。
そのため、クビワオオコウモリの生息環境は年々悪化し、
将来的な絶滅リスクが高まっているのが現状です。
今後は生態系維持のためにも、自然林の保全や人間による無理な捕獲、
駆除を減少させることが重要といえます。
クビワオオコウモリの保護活動
クビワオオコウモリは、IUCNレッドリストで「絶滅危惧II類(Vulnerable)」に指定されている絶滅危惧種です。
また、亜種の一つであるエラブオオコウモリは国の天然記念物に指定されています。
2019年には「国内希少野生動物種」に指定され、種の保存法による保護対象となりました。
屋久島環境文化財団では、屋久島町の有志グループによる観光事業の一つ「里めぐり」において、
エラブオオコウモリの生息地とともにその生態について案内しています。
島外からの観光客にとっては、コウモリの現状や実態を知るよい機会となるでしょう。
クビワオオコウモリは飼える?
クビワオオコウモリを含む野生のコウモリは、
日本では鳥獣保護管理法により捕獲や飼育が禁止されています。
万が一違反してしまうと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。
もしペットとしてコウモリの飼育を考えている場合は、
エジプシャンルーセットオオコウモリやデマレルーセットオオコウモリといった種類で検討しましょう。
合法的に飼育ができるためおすすめです。
参考
環境省「鳥獣保護管理法」
クビワオオコウモリを見られる動物園はある?
クビワオオコウモリを動物園でみられるのは、亜種であるオリイオオコウモリのみです。
東京都にある上野動物園、井の頭自然文化園で飼育されているので、
興味がある方はぜひ遊びに行ってみてください。
また、国立科学博物館ではクビワオオコウモリの剥製を常設展示しています。
実物大のコウモリの姿を間近で見られる大きなチャンスです。
貴重なコウモリと身近なコウモリ
クビワオオコウモリは、絶滅の危機に瀕する貴重なコウモリとして特別な保護が必要ですが、
日本には人の生活に密接に関わるコウモリがいます。
それが、アブラコウモリです。
アブラコウモリは日本全国に広く分布し、都市部でもよく見られる小型のコウモリで、
住居の屋根裏やビルの隙間などに棲みつくことが多く、糞害や騒音、健康被害を引き起こします。
貴重な種は守るべきですが、身近なコウモリとの付き合い方には注意が必要です。
家屋に棲みつくのは主にアブラコウモリ
日本で最も生息数の多いアブラコウモリは、ココウモリの一種です。
都市環境に適応しており、建物の隙間などの暖かく安全な場所を好んで棲みつく傾向があります。
同じコウモリとはいえ、生息環境や人との関わり方には大きな違いがあるのです。
アブラコウモリは屋根裏や換気口、外壁の隙間などに棲みつくため、害獣として問題になることが多々あります。
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アブラコウモリによる4つの被害
アブラコウモリが家屋に棲みつくと様々な被害が発生します。
ここでは代表的な被害を4つご紹介します。
4つの被害
- 糞尿が引き起こす悪臭
- 羽音や鳴き声による騒音
- 病原菌やダニ・ノミによる健康被害
- 屋根や壁の劣化
1.糞尿が引き起こす悪臭
アブラコウモリが建物に棲みつくと、糞尿の蓄積による悪臭が発生します。
屋根裏や壁の隙間に長期間留まると、臭いが染みつき、簡単には取り除けなくなります。
糞尿が湿気を含むと発酵し、アンモニア臭が強くなり、
臭いが建材に浸透すると換気を行っても消えにくく生活環境に影響を及ぼします。
定期的な点検と清掃を欠かさず、コウモリが棲みつく前に適切な対策をすることが重要です。
2.羽音や鳴き声による騒音
アブラコウモリは夜行性のため、夜間に活発に動き回ります。
屋根裏や壁の内部に生息している場合、
飛び立つ際の羽音や、仲間同士のコミュニケーションとして発する鳴き声が騒音となり、
住人の睡眠を妨げることがあります。
大量に棲みつくと音の頻度や大きさも増し、
ストレスの要因となります。
放置するとさらに個体数が増え、騒音被害が深刻化するため、
早めの対応が必要です。
3.病原菌やダニ・ノミによる健康被害
アブラコウモリやアブラコウモリの糞尿に触れると、病原菌によって健康被害につながるリスクがあります。
糞が乾燥して粉塵化し空気中に拡散すると、ヒストプラズマ症などの感染症を引き起こすこともあり、
免疫力の低い方や高齢者にとっては深刻な問題となります。
また、コウモリに寄生するダニやノミが人間に寄生すると、アレルギーや皮膚炎が生じます。
参考
4.屋根や壁の劣化
アブラコウモリの糞尿は建物の損傷を引き起こす原因になります。
木材や断熱材に浸透すると腐敗により耐久性を低下させる恐れがあり、
長期間放置するとカビが発生することで建材の劣化を早めてしまうのです。
コウモリの被害を防ぐためには、
棲みつく前に対策を行い、定期的な点検も欠かさないことが重要です。
クビワオオコウモリを見つけたら保護・アブラコウモリはプロに相談を
クビワオオコウモリは様々な地域で絶滅危惧Ⅰ類として登録されており、
保護活動が進められているため、見かけた場合は
地域の自然保護団体や専門家に報告し保護に協力することが重要です。
一方で、日本の住宅に棲みつくことの多いアブラコウモリは、糞害や騒音、健康被害を引き起こすことで、人間の生活に影響を与えます。
どちらのコウモリも生態系の一部として重要な役割を果たしていますが、
住宅に被害を及ぼす場合は適切な対策が必要です。
自宅でアブラコウモリを見かけた際は、
自力での駆除を試みるのではなく、プロに相談しましょう。
専門の業者で駆除をすると、
コウモリの生態を熟知したうえで再来対策もしっかり行ってくれます。
コウモリの種類や特徴を理解し、
守るべきものは守りながら、人とコウモリが適切な距離を保てる環境を整えましょう。
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