カグヤコウモリ(学名:Myotis longicaudatus)は、体長4.6~5.7cmほどの小型のコウモリで、ロシア、中国、朝鮮半島などに分布し、日本では北海道から滋賀県までの地域で発見されています。
近年、生息地の森林伐採や自然環境の悪化により、個体数が大幅に減少し、絶滅危惧種に指定されています。
本記事では、カグヤコウモリの特徴や生態について詳しく解説します。
世界中のコウモリは2種類に分けられる
世界には1,000種類を超えるコウモリが生息しており、昆虫や小動物を捕食する小型の「ココウモリ」と、果実を主食とする大型の「オオコウモリ」に分類されます。
ココウモリの多くは、超音波を用いて周囲の状況を把握するエコーロケーション(反響定位)を使った夜間の捕食をおこないます。
一方、オオコウモリは主に暖かい熱帯の島々に分布し、大きな目を持ち視覚を頼りに行動するのが特徴です。
カグヤコウモリはココウモリに分類されています。
ココウモリの特徴
ココウモリは、世界中の約8割を占めるコウモリです。
日本に生息する34種のうち32種はココウモリに分類され、体長は最大でも10cm程度と小さく、暗闇の中でも障害物を避けて飛ぶことができます。
ココウモリは昆虫を主食としており、農作物に被害をもたらす害虫を捕食してくれるため益獣としての側面もあります。
オオコウモリ(フルーツコウモリ)の特徴
オオコウモリは翼を広げると1メートルを超えることもある大型のコウモリで、果物や花の蜜を主に食べることから「フルーツコウモリ」と呼ばれています。
オオコウモリは犬のような顔つきが特徴で、日本では小笠原諸島に生息するオガサワラオオコウモリと、沖縄に生息するクビワオオコウモリが該当します。
カグヤコウモリの基本情報
和名 | カグヤコウモリ |
分類 | ヒナコウモリ科ホオヒゲコウモリ属 |
学名 | Myotis longicaudatus |
体長 | 約4.6~5.7㎝ |
体重 | 約6〜11g |
カグヤコウモリは竹林で初めて見つかったことから、「かぐや姫」が連想され、名づけられたといわれています。
森の中に生息し、木の洞や洞窟をねぐらにしていますが、森林伐採で自然が壊された影響を受け、絶滅危惧種に指定されるほど個体が減少しています。
カグヤコウモリの生息域
カグヤコウモリはユーラシア大陸のロシア、中国、朝鮮半島などに広く分布しており、日本では北海道から滋賀県までの地域で生息が確認されています。
カグヤコウモリの見た目の特徴
カグヤコウモリは体長4.7~5.7cmのサイズで、ふわっとした黒っぽい毛をもち、ホオヒゲコウモリ属の中では短い耳をしています。
飛膜は後ろ足の外側の指の付け根までつながっており、尾膜を広げると尾膜の血管の走行がはっきり見えます。
カグヤコウモリの生態
カグヤコウモリはどのような環境で暮らしているのでしょうか。
活動時期や時間、食べ物の種類など、さまざまな視点から紹介します。
活動時期
4月から10月にかけて活発に活動し、夏ごろには繁殖と子育てのために大規模なメスだけのコロニー(集団)を作ります。
比較的寒い地域に生息していることもあり、11月から3月までは冬眠して過ごします。
活動時間
カグヤコウモリは夜行性で、日没から明け方までの約8〜10時間を活動時間としています。
森や水辺の上空を飛び回り、1時間に数十匹から数百匹の小さな虫を捕食します。
餌となる虫の活動時間とカグヤコウモリ自身のエネルギー消費量の比率により、夜間の活動ピークは日没後2〜3時間と考えられています。
鳴き声
カグヤコウモリの鳴き声は超音波のため、人間の耳には聞こえません。
超音波変換機を使うと、「チッチッ」「ピチッピチッ」といった短く鋭い音や「ポンッ」「パチッ」といった乾いた金属音のような鳴き声が聞こえます。
食べ物
カグヤコウモリは、昆虫を主食とする肉食性のコウモリです。
蚊やコガネムシなどを好みます。
カグヤコウモリは絶滅危惧種に指定されている
カグヤコウモリは、北海道から滋賀県まで各地域の生息個数によって、絶滅危惧1種、絶滅危惧2種、準絶滅危惧に指定されています。
分類 | 説明 |
絶滅 | 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種 |
野生絶滅 | 飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種 |
絶滅危惧Ⅰ類 | 絶滅の危機に瀕している種 |
絶滅危惧ⅠA類 | ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの |
絶滅危惧ⅠB類 | 1A種ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの |
絶滅危惧Ⅱ類 | 絶滅の危険が増大している種 |
準絶滅危惧 | 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性のある種 |
情報不足 | 評価するだけの情報が不足している種 |
絶滅のおそれのある地域個体群 | 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの |
カグヤコウモリの保護活動
カグヤコウモリの保護活動は、各地域の市民団体や専門家、教育機関が連携して進めています。
北海道滝川市では、「たきかわ環境フォーラム」が中心となり、大型農機具庫をねぐらとするカグヤコウモリの出産・哺育集団を毎年モニタリングしています。
捕獲標識調査や音声記録を通して個体の移動範囲や繁殖行動を把握し、カグヤコウモリの保護活動に活用しています。
参考
たきかわ環境フォーラム公式サイト
カグヤコウモリは飼える?
カグヤコウモリをはじめとする野生のコウモリは、鳥獣保護管理法によって保護されており、許可なく捕まえたり飼育したりすることは法律で禁止されています。
万が一違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。
もしコウモリをペットとして飼いたい場合は、エジプシャンルーセットオオコウモリやデマレルーセットオオコウモリといった飼育が認められている種類を検討しましょう。
参考
環境省「鳥獣保護管理法」
カグヤコウモリを見られる動物園はある?
現在、日本国内の動物園でカグヤコウモリを常設展示している施設は確認されていません。
野生での生息数が限られている種であるため、動物園での飼育は難しく、展示の事例も非常に少ないのが現状です。
ただし、北海道旭川市で「あさひかわ自然共生ネットワーク構成団体」主催のカグヤコウモリ観察会が野外で実施されています。
参考
貴重なコウモリと身近なコウモリ
カグヤコウモリは、絶滅の危機に瀕する貴重なコウモリとして特別な保護が必要ですが、日本には人の生活に密接に関わるコウモリがいます。
それが、アブラコウモリです。
アブラコウモリは日本全国に広く分布し、都市部でもよく見られる小型のコウモリで、住居の屋根裏やビルの隙間などに棲みつくことが多く、糞害や騒音、健康被害を引き起こします。
貴重な種は守るべきですが、身近なコウモリとの付き合い方には注意が必要です。
家屋に棲みつくのは主にアブラコウモリ
日本で最も生息数の多いアブラコウモリは、ココウモリの一種です。
都市環境に適応しており、建物の隙間などの暖かく安全な場所を好んで棲みつく傾向があります。
同じコウモリとはいえ、生息環境や人との関わり方には大きな違いがあるのです。
アブラコウモリは屋根裏や換気口、外壁の隙間などに棲みつくため、害獣として問題になることが多々あります。
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アブラコウモリによる4つの被害
アブラコウモリが家屋に棲みつくと様々な被害が発生します。
ここでは代表的な被害を4つご紹介します。
4つの被害
- 糞尿が引き起こす悪臭
- 羽音や鳴き声による騒音
- 病原菌やダニ・ノミによる健康被害
- 屋根や壁の劣化
1.糞尿が引き起こす悪臭
アブラコウモリが建物に棲みつくと、糞尿の蓄積による悪臭が発生します。
屋根裏や壁の隙間に長期間留まると、臭いが染みつき、簡単には取り除けなくなります。
糞尿が湿気を含むと発酵し、アンモニア臭が強くなり、臭いが建材に浸透すると換気を行っても消えにくく生活環境に影響を及ぼします。
定期的な点検と清掃を欠かさず、コウモリが棲みつく前に適切な対策をすることが重要です。
2.羽音や鳴き声による騒音
アブラコウモリは夜行性のため、夜間に活発に動き回ります。
屋根裏や壁の内部に生息している場合、飛び立つ際の羽音や、仲間同士のコミュニケーションとして発する鳴き声が騒音となり、住人の睡眠を妨げることがあります。
大量に棲みつくと音の頻度や大きさも増し、ストレスの要因となります。
放置するとさらに個体数が増え、騒音被害が深刻化するため、早めの対応が必要です。
3.病原菌やダニ・ノミによる健康被害
アブラコウモリやアブラコウモリの糞尿に触れると、病原菌によって健康被害につながるリスクがあります。
糞が乾燥して粉塵化し空気中に拡散すると、ヒストプラズマ症などの感染症を引き起こすこともあり、免疫力の低い方や高齢者にとっては深刻な問題となります。
また、コウモリに寄生するダニやノミが人間に寄生すると、アレルギーや皮膚炎が生じます。
参考
4.屋根や壁の劣化
アブラコウモリの糞尿は建物の損傷を引き起こす原因になります。木材や断熱材に浸透すると腐敗により耐久性を低下させる恐れがあり、
長期間放置するとカビが発生することで建材の劣化を早めてしまうのです。
コウモリの被害を防ぐためには、棲みつく前に対策を行い、定期的な点検も欠かさないことが重要です。
カグヤコウモリを見つけたら保護・アブラコウモリはプロに相談を
カグヤコウモリは様々な地域で絶滅危惧種として登録されており、
保護活動が進められているため、見かけた場合は地域の自然保護団体や専門家に報告し保護に協力することが重要です。
一方で、日本の住宅に棲みつくことの多いアブラコウモリは、糞害や騒音、健康被害を引き起こすことで、人間の生活に影響を与えます。
どちらのコウモリも生態系の一部として重要な役割を果たしていますが、住宅に被害を及ぼす場合は適切な対策が必要です。
自宅でアブラコウモリを見かけた際は、自力での駆除を試みるのではなく、プロに相談しましょう。
専門の業者で駆除をすると、コウモリの生態を熟知したうえで再来対策もしっかり行ってくれます。
コウモリの種類や特徴を理解し、守るべきものは守りながら、人とコウモリが適切な距離を保てる環境を整えましょう。
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