コウモリ駆除

絶滅の危機にあるテングコウモリとは?|特徴、生態などを詳しく解説

テングコウモリ(学名:Murina hilgendorfi)は、カザフスタンやロシア、モンゴル、中国といったユーラシア大陸に広く生息するほか、

日本では北海道から九州まで全国的に観測が報告されているコウモリです。

鼻が筒状に出ているのが特徴で、テングコウモリの名前の由来になっており、

枯草や木の葉の裏、樹洞、建物、橋梁下部などさまざまな場所をねぐらにしています。

本記事では、テングコウモリの基本情報や生態、ほかのコウモリとの違いについても詳しく解説します。

世界中のコウモリは2種類に分けられる

世界には1,000種類を超えるコウモリが生息しており、

大きく分けて「ココウモリ(小翼手亜目)」と「オオコウモリ(オオコウモリ亜目)」の2つのグループに分類されます。

ココウモリは小型の種が多く、昆虫や小動物を食べる肉食性です。

暗闇でも飛び回れる「エコーロケーション(反響定位)」という超音波の能力を持ち、獲物となる昆虫の場所を特定したり仲間とコミュニケーションをとったりしています。

一方、オオコウモリは大きな目で周囲を見ながら行動し、果物を主に食べることから「フルーツコウモリ」とも呼ばれる種類です。

熱帯・亜熱帯の島々に広く分布し、日本でも一部の地域で見ることができます。

なお、日本に生息するコウモリのほとんどはココウモリの仲間で、テングコウモリもその一例です。

ココウモリの特徴

ココウモリは、世界中のコウモリの約8割を占める代表的なコウモリです。

体長は最大でも10cm程度と小さく、日本では確認されている34種のうち32種がココウモリに分類され、テングコウモリも含まれています。

最大の特徴は、超音波を発してその反射音から周囲の物体や獲物を見つけ出すエコーロケーションです。

夜間の暗い環境でも自由に飛び回ったり、エサとなる昆虫の位置を瞬時に把握したりできるというメリットを持っています。

オオコウモリ(フルーツコウモリ)の特徴

オオコウモリは翼を広げると1メートルを超えることもある大型のコウモリで、果物や花の蜜を主に食べることから「フルーツコウモリ」と呼ばれています。

バナナやマンゴー、イチジクなどを好み、食事中に花粉を運ぶことで森林の植物の受粉を助ける役割も果たしているのが特徴です。

一方で、果樹園などの作物を食べてしまうために、農業被害の原因につながることもあります。

日本では、オガサワラオオコウモリとヤエヤマオオコウモリが代表的な種で、いずれも絶滅の恐れがある保護対象です。

沖縄や小笠原などの地域では、オオコウモリの姿を観察できるナイトツアーも開催されており、自然と触れ合える体験として注目を集めています。

テングコウモリの基本情報

和名 テングコウモリ
分類 ヒナコウモリ科テングコウモリ属
学名 Murina hilgendorfi
体長 約4.6~7.0㎝
体重 約8〜20g

テングコウモリの生息域

テングコウモリは、ユーラシア大陸を中心に広く分布しているコウモリで、カザフスタン、ロシア、モンゴル、中国などに生息しています。

日本国内では比較的広い範囲で確認されており、北海道から本州、四国、九州、さらには国後島に至るまで各地で観察記録があります

枯草や木の葉の裏、樹洞、人工建物、橋梁の下といったさまざまな場所をねぐらとしています。

また、夏場の繁殖期にはコロニーを形成し、出産や子育てのために安全な環境を選んで移動する傾向が見られます。

テングコウモリの見た目の特徴

テングコウモリの背中の毛は灰色がかった茶色で、銀色や金色に光る長い毛が混じっています。

尾の部分や翼の付け根、後ろ足にも毛がしっかり生えていているほか、

名前の由来にもなっている天狗のような鼻は、筒状に前へ突き出しています

耳は丸みを帯びており、前足の親指が大きく、爪が細く長いこともほかの種類と見分ける際のポイントといえるでしょう。

また、日本に生息するテングコウモリ属のなかでは、最も身体が大きな種とされています。

コテングコウモリとの違い

テングコウモリとよく比較されるのが、同じテングコウモリ属の「コテングコウモリ」です。

見た目は似ているものの、体長約4.6~7.0cmのテングコウモリに対し、コテングコウモリの体長は約3.8~5.0cmとやや小さめとされています。

また、コテングコウモリは鼻の突起が短く、耳の形もより丸みを帯びているのが特徴です。

観察や識別の際には、体の大きさや耳や鼻の特徴を観察するとよいでしょう。

テングコウモリの生態

テングコウモリはどんな場所で暮らし、季節によってどのように過ごしているのでしょうか?

活動の時期や時間、鳴き声のしくみ、食べ物の種類など、テングコウモリの暮らしをさまざまな視点から紹介します。

活動時期

テングコウモリは秋から春にかけて、多いと10個以上が集まるコロニーを形成します。

3月から5月にかけて数が最も多くなり、160頭を超える大規模なコロニーが確認された例もありました。

出産は夏場に行われ、6月から7月が妊娠哺育期間と考えられており、また過去には約8年間生存していた個体の記録も残っています。

活動時間

日中は外敵や直射日光を避けるため、枯草や木の葉の裏、建物のすき間、橋の下、廃坑などの暗く静かな場所で休息します。

テングコウモリは夜行性の動物なので、夕暮れ以降はエサとなる昆虫を求めて活発に飛び回り、

水辺や森林の縁など虫が集まりやすい場所を好んで行動します。その後、明るくなる前には再びねぐらに戻って眠りにつくというのが日々のルーティンです。

鳴き声

テングコウモリは、超音波を利用したエコーロケーション(反響定位)によって周囲の状況を把握しています。

エコーロケーションは口や鼻から発せられた超音波が障害物や獲物に反射し、その反響音を耳で受け取ることで、対象物の位置や動きを正確に読み取れるという仕組みです。

周波数帯は地域によって違いがあり、北海道ではEF(終止周波数)が約43.6kHz、FME(最大エネルギー周波数)が51.2kHz、宮崎県ではそれぞれ27.4kHzと49.6kHzという測定結果が報告されています。

また、これらの音は人間の耳には聴こえない高周波数であり、障害物の回避や捕食のためだけでなく、仲間同士のコミュニケーションにも用いられていると考えられています。

食べ物

テングコウモリは、昆虫を主食とする肉食性のコウモリです。

空中を飛びながら虫を捕まえることに長けており、確認されている捕食対象には、オサムシ類、クモ類、チョウ目の幼虫、キリギリス類、トンボ類、ハナアブ類などがあります。

地表から空中までさまざまな場所を狩場としており、エコーロケーションを駆使して正確に獲物をとらえることが可能です。

テングコウモリはさまざまな昆虫を捕食し害虫駆除にも貢献していることから、生態系の中で重要な役割を担っており、農業や森林環境の保全にも期待される存在といえます。

テングコウモリは絶滅危惧種に指定されている

絶滅危惧種は環境省の指定によって、以下のとおり9つに分けられています。

テングコウモリは、多くの地域で絶滅の危機に瀕していると位置づけられており、絶滅危惧種から準絶滅危惧まで幅広く分類されているコウモリです。

分類 説明
絶滅 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅 飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種
絶滅危惧Ⅰ類 絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧ⅠA類 ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
絶滅危惧ⅠB類 1A種ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
絶滅危惧Ⅱ類 絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性のある種
情報不足 評価するだけの情報が不足している種
絶滅のおそれのある地域個体群 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

テングコウモリを絶滅危惧種Ⅰ類に指定しているのは、秋田県、神奈川県、愛知県、滋賀県、大阪府、岡山県、大分県の7府県です。

一方、絶滅危惧Ⅱ類に分類しているのは、青森県、新潟県、東京都、岐阜県、京都府、広島県、愛媛県、福岡県など19都府県、準絶滅危惧種と定めているのは北海道、埼玉県、山梨県、三重県、島根県、山口県の7つの道県です。

全国の多くの地域で絶滅危惧種に指定されている背景には、森林の伐採や都市の開発によってテングコウモリの棲み処が減少していることが大きく関わっています。

ねぐらとなる場所への人間の立ち入りも加わり、安定した環境で暮らし続けることが難しくなっていることも原因です。

テングコウモリの保護活動

森林伐採や都市開発、さらに人間の生活圏の拡大などによりさまざまな地域で絶滅危惧種に指定されているテングコウモリの保護活動は各地で行われています。

神奈川県の丹沢山地では、テングコウモリを含む樹洞性コウモリの保護のため、大径木の保護や森林の維持が提案されています。

青森県ではコウモリ類の生息環境を保護するため、JR貨車を埋設し、上部に盛り土をして内部の温湿度を安定させる人工洞穴が設置されました。

今後も地域の特性に応じた対策と、生態調査を継続する取り組みが重要となるでしょう。

テングコウモリは飼える?

テングコウモリをはじめとする野生のコウモリは、鳥獣保護管理法によって保護されており、許可なく捕まえたり飼育したりすることは法律で禁止されています。

万が一違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。

もしコウモリをペットとして飼いたい場合は、エジプシャンルーセットオオコウモリやデマレルーセットオオコウモリといった、果物を主食とし、飼育が認められている種類を検討しましょう。

参考

環境省「鳥獣保護管理法

テングコウモリを見られる動物園はある?

現在、日本国内の動物園でテングコウモリを常設展示している施設は確認されていません。

野生での生息数が限られている種であるため、動物園での飼育は難しく、展示の事例も非常に少ないのが現状です。

ただし、過去には栃木県の那須野が原博物館において、絶滅危惧種をテーマにした企画展でテングコウモリの剥製が展示されたことがあります。

長野県にある戸隠地質化石博物館には、地域住民によって保護された野生のテングコウモリが持ち込まれた記録も残されています。

テングコウモリを直接観察する機会は限られているため、

展示情報を見つけたら事前に施設に問い合わせて確認してみるとよいでしょう。

貴重なコウモリと身近なコウモリ

テングコウモリは、絶滅の危機に瀕する貴重なコウモリとして特別な保護が必要ですが、日本には人の生活に密接に関わるコウモリがいます。

それが、アブラコウモリです。

アブラコウモリは日本全国に広く分布し、都市部でもよく見られる小型のコウモリで、住居の屋根裏やビルの隙間などに棲みつくことが多く、糞害や騒音、健康被害を引き起こします。

貴重な種は守るべきですが、身近なコウモリとの付き合い方には注意が必要です。

家屋に棲みつくのは主にアブラコウモリ

日本で最も生息数の多いアブラコウモリは、ココウモリの一種です。

都市環境に適応しており、建物の隙間などの暖かく安全な場所を好んで棲みつく傾向があります。

同じコウモリとはいえ、生息環境や人との関わり方には大きな違いがあるのです。

アブラコウモリは屋根裏や換気口、外壁の隙間などに棲みつくため、害獣として問題になることが多々あります。

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アブラコウモリによる4つの被害

アブラコウモリが家屋に棲みつくと様々な被害が発生します。

ここでは代表的な被害を4つご紹介します。

4つの被害

  1. 糞尿が引き起こす悪臭
  2. 羽音や鳴き声による騒音
  3. 病原菌やダニ・ノミによる健康被害
  4. 屋根や壁の劣化

1.糞尿が引き起こす悪臭

アブラコウモリが建物に棲みつくと、糞尿の蓄積による悪臭が発生します。

屋根裏や壁の隙間に長期間留まると、臭いが染みつき、簡単には取り除けなくなります。

糞尿が湿気を含むと発酵し、アンモニア臭が強くなり臭いが建材に浸透すると換気を行っても消えにくく生活環境に影響を及ぼします。

定期的な点検と清掃を欠かさず、コウモリが棲みつく前に適切な対策をすることが重要です。

2.羽音や鳴き声による騒音

アブラコウモリは夜行性のため、夜間に活発に動き回ります。

屋根裏や壁の内部に生息している場合、飛び立つ際の羽音や、仲間同士のコミュニケーションとして発する鳴き声が騒音となり住人の睡眠を妨げることがあります。

大量に棲みつくと音の頻度や大きさも増し、ストレスの要因となります。

放置するとさらに個体数が増え、騒音被害が深刻化するため、早めの対応が必要です。

3.病原菌やダニ・ノミによる健康被害

アブラコウモリやアブラコウモリの糞尿に触れると、病原菌によって健康被害につながるリスクがあります。

糞が乾燥して粉塵化し空気中に拡散すると、ヒストプラズマ症などの感染症を引き起こすこともあり、免疫力の低い方や高齢者にとっては深刻な問題となります。

また、コウモリに寄生するダニやノミが人間に寄生すると、アレルギーや皮膚炎が生じます。

参考

4.屋根や壁の劣化

アブラコウモリの糞尿は建物の損傷を引き起こす原因になります。木材や断熱材に浸透すると腐敗により耐久性を低下させる恐れがあり

長期間放置するとカビが発生することで建材の劣化を早めてしまうのです。

コウモリの被害を防ぐためには、棲みつく前に対策を行い、定期的な点検も欠かさないことが重要です。

テングコウモリを見つけたら保護・アブラコウモリはプロに相談を

テングコウモリは様々な地域で絶滅危惧Ⅰ類として登録されており、

保護活動が進められているため、見かけた場合は地域の自然保護団体や専門家に報告し保護に協力することが重要です。

都道府県別:野生鳥獣担当機関の連絡先リストはコチラ

一方で、日本の住宅に棲みつくことの多いアブラコウモリは、糞害や騒音、健康被害を引き起こすことで、人間の生活に影響を与えます。

どちらのコウモリも生態系の一部として重要な役割を果たしていますが、住宅に被害を及ぼす場合は適切な対策が必要です。

自宅でアブラコウモリを見かけた際は、自力での駆除を試みるのではなく、プロに相談しましょう

専門の業者で駆除をすると、コウモリの生態を熟知したうえで再来対策もしっかり行ってくれます。

コウモリの種類や特徴を理解し、守るべきものは守りながら、人とコウモリが適切な距離を保てる環境を整えましょう。

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害獣お助け本舗編集部⑥

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