オガサワラオオコウモリ(学名:Pteropus pselaphon)とは、オオコウモリの一種で小笠原諸島にのみに生息する日本固有のコウモリです。
日本で最も貴重なコウモリの一種で、絶滅危惧種に指定されており、父島など一部の島では保護活動も行われています。
ここでは、オガサワラオオコウモリの基本情報や保護の現状、ココウモリとの違いを詳しく解説します。
このような方におすすめ
- コウモリの生態や種類を詳しく知りたい方
- オガサワラオオコウモリの保護活動に関心がある方
- 家でコウモリを見かけて対策を考えている方
世界中のコウモリは2種類に分けられる
世界中には1,000種類以上のコウモリが生息しており、
大きく果実を主食とする大型のオオコウモリと昆虫や小動物を捕食する小型のココウモリ
に分けられます。
オオコウモリは主に熱帯や亜熱帯の島々に生息し、
大きな目を持ち、視覚を頼りに飛行します。
一方、ココウモリは超音波を発して周囲の状況を把握するエコーロケーションを用いる種が多く、
夜間の狩りに適応しています。
オガサワラオオコウモリはオオコウモリの一種であり、
日本でよく見られるココウモリとは違った特徴を持っています。
オオコウモリ(フルーツコウモリ)の特徴
オオコウモリは名前の通り大型のコウモリで、
翼を広げると1メートル以上になる種もおり、視覚と嗅覚を頼りに果実や花の蜜を食べるため、
フルーツコウモリとも呼ばれます。
バナナやマンゴー、イチジクなどを好み、植物の花粉を運ぶことで森林の生態系に貢献していますが、
果樹園では作物を食害することがあり、農業被害につながるケースもあります。
一方で、オガサワラオオコウモリを含むオオコウモリは、
独特な生態から観光資源として、夜間の観察ツアーが行われる地域もあります。
ココウモリの特徴
ココウモリは世界中に広く分布し、日本にも32種類が生息しています。
翼を広げても30cm程度、体長も5~10cmほどと小型で、
エコーロケーション(超音波)を使いながら
暗闇の中で蚊、蛾、クモなどを捕食します。
そのため、夜間に活動し、
建物の隙間や森林の洞窟などに生息するのが一般的です。
ココウモリを都市部で見かけるほとんどがアブラコウモリといわれており、
屋根裏や換気口、換気ダクトの中、物置など、建物の隙間に巣を作り、
糞尿の悪臭や害虫の発生、建造物の汚染や劣化など、さまざまな被害をもたらしています。
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オガサワラオオコウモリの基本情報
和名 | オガサワラオオコウモリ |
---|---|
分類 | オオコウモリ科 |
学名 | Pteropus pselaphon(プテロプス・プセラフォン) |
体長 | 約20~25cm |
体重 | 約400~600g |
オガサワラオオコウモリの生息域
オガサワラオオコウモリは、小笠原諸島の父島、母島、聟島列島などに生息しており、
日本の一部の地域にのみ分布している固有種です。
人の生活圏にも適応し、集落周辺で観察されることもありますが、近年は生息数の減少が懸念されています。
オガサワラオオコウモリの見た目
オガサワラオオコウモリは、体長約20~25cmで、翼を広げた際の幅は最大80cmまで達します。
翼は長く幅広いため、重力と空気の流れを利用して滑るように飛ぶのが得意で、飛行中は比較的ゆったりとした動きをしながら果実のある木々を探します。
黒色と茶色の長い毛で覆われていて、頭部や背中、腹部には光沢のある灰白色が混ざっています。
一方で、羽には毛がなく、大きな目と短い鼻でキツネのような顔立ちをしています。
オガサワラオオコウモリの生態
オガサワラオオコウモリの特徴的な見た目や生態は、
日本でよく見られるココウモリとは異なります。
ここからは、オガサワラオオコウモリの活動時期や食性などについて詳しく見ていきましょう。
活動時期
オガサワラオオコウモリは年間を通じて活動しますが、
特に温暖で果実が豊富な6~8月に活発になります。
冬場でも比較的暖かい小笠原諸島では冬眠せず、
安定した活動を続けます。
主に11月~2月頃が、子どもを産む個体が多く見られる繁殖期です。
この時期には”コウモリだんご”と呼ばれる集団の巣をつくり、互いに密着してだんご状に丸くなって寝ます。
他のオオコウモリでは決して見られない特徴的な行動で、
繁殖に重要な役割を果たしているのです。
活動時間
オガサワラオオコウモリは夜行性で、日没後に活動を開始し、特に日没後2~3時間が最も活発になります。
明け方にも採食することがありますが、
日中は樹上にぶら下がり休息します。
鳴き声
オガサワラオオコウモリは比較的静かな動物で、
他のコウモリ種に比べて鳴き声を発する頻度は低いです。
しかし、威嚇時や縄張り争いの際には
「ギャッギャッ」「キィキィ」といった甲高い鳴き声を発することがあります。
食べ物
オガサワラオオコウモリは植物植生で、
主にヤシ類などの葉、ガジュマル、グアバ、タコノキ、バナナなどの果実や花の蜜を主食とします。
果実の種子を運ぶ役割を担っており、
小笠原諸島の生態系において重要な存在に位置付けられます。
参考
オガサワラ諸島におけるオガサワラオオコウモリの食性
絶滅危惧種に指定されているオガサワラオオコウモリ
オガサワラオオコウモリは、
森林開発などによる生活環境の減少や、外来種である野生の猫やカラスの捕食により、
絶滅危惧種に指定されています。
また、台風などの自然災害による影響も大きく、
個体数の減少に拍車をかけています。
現在は繁殖支援や生息地の保全活動が進められており、
人工繁殖の試みも行われていますが、生態や繁殖習性の研究はまだ不十分であり、
より一層の保護対策が必要です。
オガサワラオオコウモリの保護活動
絶滅危惧種に指定されているオガサワラオオコウモリを守るため、小笠原諸島では様々な保護活動が行われています。
ここでは保護活動の取り組みを4つご紹介します。
活動内容 | 具体的な取り組み |
生息数調査 | 環境省が個体数モニタリングを実施し、減少傾向を分析 |
外来種対策 | 野性のネコの捕獲・管理、カラスの個体数調整 |
人工巣の設置 | 巣を確認し、生息環境を改善 |
地域協力 | 学校や観光客向けに、オガサワラオオコウモリの重要性を伝える活動を実施 |
オガサワラオオコウモリを保護するため、小笠原では巣への不必要な立ち入りは禁止しており、
観光の際は専門ガイドの同伴が求められます。
オガサワラオオコウモリは飼える?
オガサワラオオコウモリは日本固有のオオコウモリであり、絶滅危惧種に指定されているため、
個人での捕獲・譲渡・売買は禁止されています。
また日本国内では野生のコウモリを捕獲・飼育すること自体が鳥獣保護管理法で禁止されており、
1年以下の懲役または100万円以下の罰金に科せられます。
ただし、過去に東京都小笠原村の研究機関が負傷したコウモリを保護・治療をした事例があるように、
保護や研究目的であれば一時的な飼育が認められる可能性があります。
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オガサワラオオコウモリを見られる動物園はある?
現在、オガサワラオオコウモリは絶滅危惧種に指定され捕獲や飼育が厳しく制限されているため、
飼育や展示をしている動物園はほとんどありません。
動物園での飼育よりも、野生のオガサワラオオコウモリを保護することが最優先とされ、
「生息地での保全」が重視されているのです。
しかし、東京都にある上野動物園では過去に負傷したオガサワラオオコウモリを一時的に保護・飼育した事例があり、
標本や資料が展示されています。
2020年に小笠原諸島で保護されたオガサワラコウモリが2025年2月25日から公開されました。
オガサワラオオコウモリは、小笠原諸島の生態系を支える重要な役割を担っているため、
動物園では保護活動としてれ飼育されるケースがあります。
参考
貴重なコウモリと身近なコウモリ
オガサワラオオコウモリは、絶滅の危機に瀕する貴重なコウモリとして特別な保護が必要ですが、
日本には人の生活に密接に関わるコウモリがいます。
それが、アブラコウモリです。
アブラコウモリは日本全国に広く分布し、都市部でもよく見られる小型のコウモリで、
住居の屋根裏やビルの隙間などに棲みつくことが多く、糞害や騒音、健康被害を引き起こします。
貴重な種は守るべきですが、身近なコウモリとの付き合い方には注意が必要です。
家屋に棲みつくのは主にアブラコウモリ
日本で最も生息数の多いアブラコウモリは、ココウモリの一種です。
都市環境に適応しており、建物の隙間などの暖かく安全な場所を好んで棲みつく傾向があります。
オガサワラオオコウモリとアブラコウモリは同じコウモリとはいえ、
生息環境や人との関わり方には大きな違いがあるのです。
アブラコウモリは屋根裏や換気口、外壁の隙間などに棲みつくため、
害獣として問題になることが多々あります。
アブラコウモリによる4つの被害
アブラコウモリが家屋に棲みつくと様々な被害が発生します。
ここでは代表的な被害を4つご紹介します。
4つの被害
- 糞尿が引き起こす悪臭
- 羽音や鳴き声による騒音
- 病原菌やダニ・ノミによる健康被害
- 屋根や壁の劣化
1.糞尿が引き起こす悪臭
アブラコウモリが建物に棲みつくと、
糞尿の蓄積による悪臭が発生します。
屋根裏や壁の隙間に長期間留まると、臭いが染みつき、簡単には取り除けなくなります。
糞尿が湿気を含むと発酵し、アンモニア臭が強くなり、
臭いが建材に浸透すると換気を行っても消えにくく生活環境に影響を及ぼします。
定期的な点検と清掃を欠かさず、コウモリが棲みつく前に適切な対策をすることが重要です。
2.羽音や鳴き声による騒音
アブラコウモリは夜行性のため、夜間に活発に動き回ります。
屋根裏や壁の内部に生息している場合、飛び立つ際の羽音や、仲間同士のコミュニケーションとして発する鳴き声が騒音となり、
住人の睡眠を妨げることがあります。
大量に棲みつくと音の頻度や大きさも増し、
ストレスの要因となります。
放置するとさらに個体数が増え、騒音被害が深刻化するため、
早めの対応が必要です。
3.病原菌やダニ・ノミによる健康被害
アブラコウモリやアブラコウモリの糞尿に触れると、
病原菌によって健康被害につながるリスクがあります。
糞が乾燥して粉塵化し空気中に拡散すると、ヒストプラズマ症などの感染症を引き起こすこともあり、
免疫力の低い方や高齢者にとっては深刻な問題となります。
また、コウモリに寄生するダニやノミが人間に寄生すると、アレルギーや皮膚炎が生じます。
参考
4.屋根や壁の劣化
アブラコウモリの糞尿は建物の損傷を引き起こす原因になります。
木材や断熱材に浸透すると腐敗により耐久性を低下させる恐れがあり、
長期間放置するとカビが発生することで建材の劣化を早めてしまうのです。
コウモリの被害を防ぐためには、
棲みつく前に対策を行い、定期的な点検も欠かさないことが重要です。
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日本の住宅に棲みつくことの多いアブラコウモリは、糞害や騒音、健康被害を引き起こすことで、人間の生活に影響を与えます。
どちらのコウモリも生態系の一部として重要な役割を果たしていますが、
住宅に被害を及ぼす場合は適切な対策が必要です。
自宅でアブラコウモリを見かけた際は、
自力での駆除を試みるのではなく、プロに相談しましょう。
専門の業者で駆除をすると、
コウモリの生態を熟知したうえで再来対策もしっかり行ってくれます。
コウモリの種類や特徴を理解し、
守るべきものは守りながら、人とコウモリが適切な距離を保てる環境を整えましょう。
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